研究概要 |
1.脳神経系の「プログラム細胞死」は神経栄養因子の量によって決定されるとの考えが主流だが、これに加えてキラ-因子や抗キラ-因子の関与が今回の研究で示唆された:(1)ヒト神経芽腫NB1細胞は、新生期脳由来抗癌蛋白質NBCF(62,kDa,pI9.1)を投与して6ー24時間後に、神経突起の消失、細胞凝集、核凝縮などプログラム死で見られるapoptosis様の変性像を示すが、NBCF抵抗性である分化NB1細胞から分泌される蛋白性NBCF拮抗因子(36kDa)をNBCFと同時投与すると細胞死は阻止された。(2)NBCF感受性である未分化NB1細胞は、6時間NBCF処理すると、もはやNBCF除去しても細胞死を免れ得ないが、この時は既に核DNAがヌクレオソ-ム単位で断片化し始めていて、その後断片化が顕著となった。しかし、NBCF拮抗因子の同時添加によってNBCFのDNA断片効果が抑制されれた。(3)NB1細胞は分化するとミトコンドリア脱水素酵素活性(mit.deHase)が29%上昇するが、分化細胞では、NBCF投与によるmit.deHase阻害は軽減され、高いmit.deHase酵素活性レベルのまま保持された。一方、未分化NB1細胞は元来低いmit.deHase活性だが、NBCF処理によって一層低下するものの、蛋白性NBCF拮抗因子との同時処理によって活性低下が軽減した。(1)〜(3)より細胞死はキラ-因子の他に細胞分化状態によって産生量が規定される抗キラ-因子によって制御されていることを示す。2,NBCFを産生する新生期マウス脳培養系の中に、神経栄養因子であるNGFやbFGFあるいはcAMP誘導体を投与しても、NBCF産生量は変化ないが、新生期マウス四肢筋由来分泌物質(>5kDa)を投与すると、NBCFは減産した。この培養脳にcycloheximideを添加するとNBCF産生は激減した。したがって、NBCF遺伝子は運動神経由来の神経栄養因子によってその発現を抑制され、NBCFは交感神経や知覚神経を作用標的とせず、すべての脳神経系に一様に作用するキラ-蛋白質ではないと考えられる。
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