研究概要 |
われわれは、すでに1981年に、真獣類哺乳類の着床期における母体ー胚相互作用にマクロファ-ジが関与しているらしい事実を、ラット及びマウス用いて、明らかにした(C.Tachi et al.,1981,J.exp.Zool.,217,81;C.Tachi&Tachi,1986)が、最近,世界の研究者の間で、着床期子宮内膜や胎盤におけるマクロファ-ジに対する関心が高まりつつある。われわれは、特に妊娠初期の子宮内マクロファ-ジ(組職球、単核球を含む)の機能に着目して研究を進めて来たが、従来用いられていたマクロファ-ジの培養法に改良を加え(C.Tachi,1988,Proc.2nd Ann.Meeting Jap.Soc.Basic Reprod.Immunol.,pp71ー75)、現在では、ほぼ100%の純度を持つ培養マクロファ-ジ(腹腔)を用いた研究が可能となっている。一方、定量的解析に適合したマウス胚盤胞の培養法を確立したので(C.Tachi,1991a,In"Uterine and Embryonic Factors in Early Pregnancy,eds.J.Strauss et al.,Plemum Press,New York:C.Tachi,1992,Dev.Growth Diff.,34,67ー77)、平成3年度には、主としてこの系を用いて、培養マクロファ-ジによる順化培養液の、胚盤胞の発生に対する影響の検討を行った。その結果、適当な条件で得られたマクロファ-ジ順化培養液が、in vitroで培養した胚盤胞の外胎盤錘細胞の増殖を著しく刺激することを明かにした(C.Tachi,1991a,C.Tachi,1991b,In "Proceedings of 2nd Lake Shirakaba Placenta Conference",pp.112ー126)。この物質は、恐らく分子量30,000以下で、現在得られている予備的デ-タでは、EGF、FGFなどとは異なることが示唆されている。胚盤胞の未分化ICM細胞は、多様なオ-トクライン、もしくはパラクライン制御機構を有していることが、最近、相次いで報告されているので、この物質は、それらのチャネルを介して機能しているものである可能性もある。さらに、腹腔マクロファ-ジのみでなく、脾臓や、子宮内膜のマクロファ-ジを精製して研究行う目的で、広汎なマクロファ-ジ系列細胞に、特異的に反応することが知られているF4ー80抗体を産生するハイブリド-マを入手し、現在、抗体の精製を試みている。培養マクロファ-ジ順化培養液中の、有効物質の精製については、その量が予想以上に微量であることから、進展が遅れている。現在、マクロファ-ジを形質転換により増殖可能とし、大量の有効物質を得る実験の準備を進めている。
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