研究概要 |
われわれは、真獣類哺乳類の着床期における母体ー胚相互作用にマクロファージが関与しているらしい事実を、ラット及びマウスを用いて明らかにした(C.Tachi et al.,1981,1986)が、最近、世界の研究者の間で着床期子宮内膜や胎盤におけるマクロファージに対する関心が高まりつつある。われわれは、妊娠初期の子宮内マクロファージの機能に着目して研究を進めて来たが、従来用いられていたマクロファージの培養法に改良を加え(C.Tachi,1988)、さらに、定量的解析に適したマウス胚盤胞の培養法を確立したので(C.Tachi,1991,1992)、平成3年度以降、主にこの系を用い、培養マクロファージによる順化培養液の胚盤胞の発生に対する影響の検討を行った。その結果、適当な条件下で得られたマクロファージ順化培養液が、in vitroで培養した胚盤胞の外胎盤錘細胞の増殖を著しく刺激することを明かにした(C.Tachi,1991)。この物質は、恐らく分子量30,000以下で、EGF、FGFなどとは異なることが示唆された。一方、Kanai-Azumaら(1992)は、IGF-Iが妊娠10日頃の外胎盤堆のトロフオブラスト細胞の増殖を促進することを見いだしている。しかし、胚盤胞のトロフオブラスト細胞の増殖に対するIGFの効果は、現在のところあまり明白ではない。本研究の進行中に、GM-CSF(Athanassakisら、1991)、および、IL-3(Moriら,1992)が、トロフオブラスト細胞の増殖を促進するらしいこと、また、M-CSFが着床に重要な役割を果しているらしいこと(Pollardら,1992)が明らかにされ、着床におけるモノカイン物質の重要性は疑いないものになった。われわれの結果は、マクロファージ順化メディウム中のモノカイン様物質に、トロフオブラスト細胞の増殖を促進する物質と、抑制する物質が存在することを示しているが、今回の研究の期間内には、最終的に物質の同定には至らなかった。現在、さらに研究を続行中である。
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