研究概要 |
平成4年度の研究計画は,分子動力学を基礎とした高分子液体の流動過程の解析の第一段階として,ニュートン流体に高アスペクト比の繊維を懸濁した液体を高分子液体のもっとも簡単なモデルと考え,(1)繊維の長さ,含有率及び剛性を変えて繊維懸濁液の流動特性を測定するとともに単純な流れ場での繊維の形態配列の変化を観察する.(2)急絞り流路での流れについて,流れ模様並びに繊維の形態,配列,分布などの観察を行い,繊維懸濁液の複雑な流れと関連づけて検討する. その結果,単純せん断のスタートアップ流れの実験から,初め比較的ランダムに配列していた繊維が流れの開始後急激に配列を変えていくのが観察された.これが,ニュートン流体には見られないせん断応力のオーバーシュートのような過渡的流動特性の原因になっていると考えられる.また,円管急絞り流路内での流れの可視化実験並びに繊維の配向の観察から,ニュートン流体中では繊維は流路壁面の近くの領域で流れ方向に良好に配列しているが,中心部へ近づくにつれて配列が悪くなることがわかった.これは,速度匂配が小さいため繊維が向きを変えるのに長い移動距離を必要とするためである.更に,絞り部へ近づくと加速流になるので中心部付近の繊維は流線の方向に配列するようになるが,流線が曲がるため,その周辺の領域では流線方向への配向が幾分悪くなる現象が明らかになった.なお,高分子溶液の流れ中では繊維はニュートン流体中での場合に比べて極めて良好に流線に沿って配列することもわかった.しかし,この研究の目的である分子動力学から高分子液体の流動を考察するのに欠かすことのできない,流動中に形態を変えやすいフレキシブルな繊維の懸濁液に関する研究は十分に行うことができず今後の課題である.
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