研究概要 |
近年,VLSIシステムの極限的微細化は著しいが,内部配線の複雑さによる性能劣化が避けられない状況となりつつある。本研究では,配線に制限されない新しいディジタルシステムの構築を目指して,酵素反応の選択性に着目したバイオ素子に基づく超多値・高並列バイオ情報処理システムの提案,基礎理論の確立およびその実現に向けた基礎実験を行った。 生体触媒である酵素は,無数の基質の中から1種類のみ選択する能力を有している。そこで,基質の種類で多値論理値を表現すると,溶液中における膨大な種類の基質分子の多重化により,原理的に超多値化が可能であり,しかもこの超多値情報を酵素を用いて並列選択的に識別することができる。この並列選択性に基づき基質の集合をスイッチングするバイオ素子の提案すると共に,酵素電極を用いた試作実験を行った。また,溶液中の分子集合を情報単位とする集合論理代数を確立し,上記バイオ素子に基づく集合論理回路網の系統的構成法を明らかにした。この結果,処理対象のデ-タ依存グラフに基づき,配線を用いる代わりに酵素選択情報をプログラムすることにより,極めて粒度の小さい並列処理システムを設計することが可能になった。 また,上記システム構成理論に基づき実際に,並列画像処理システムおよび並列ソ-ティングネットワ-クの設計および評価を行った。この結果,従来のVLSIと比較して,漸近的な演算段数のオ-ダ-が極めて小さい完全並列処理が可能であることが示された。
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