明治後期から刊行されてきた主要な婦人雑誌を対象として、掲載されている住宅に関する記事を収集し、計画者の主体別に、住宅計画原則の変遷に関する分析を行った。居住者の中でも、住生活の改善を中心的に担ってきた中流層の主婦が計画した住宅と、建築家をはじめとした専門家が計画した住宅とを、比較・検討した。 居住者の属性を、収入・職業・居住地・住宅規模の諸点から検討し、専門家が計画した住宅と居住者が計画した住宅との間には階層差が存在し、前者の方が階層的に高いことを指摘した。 住宅を構成する居室・設備部分について、接客室、台所、食事の場、団らんの場、主寝室、子ども室、浴室、冷暖房設備をとりあげ、歴史的な変化の過程を社会的な背景と対応させつつ考察した。その結果、それらの諸室が洋室化するのは、中流層は他の階層に比べて早いが、中でも専門家が計画した住宅の方が早いことをみた。接客室の一部である書斉や食事、団らんの場が洋室化・イスザ化するのは、専門家が計画した住宅では大正期に多くみられるが、居住者が計画した住宅では、この時期にも和室の茶の間の方が多く計画されているのである。しかし、戦後に建築家が計画し、広く普及することになったダイニングキッチンの原型である台所と食事の場を一体とした居室構成は、戦前には居住者が計画した住宅においてだけみられ、専門家が計画した住宅にはみられないという重要な知見を得ることができた。これは、既住研究で指摘しているものはない、本研究の独自性である。炊事を行う主婦が、生活経験を通して家事労働の合理化と主婦専用の居室とを確立することを目的に計画したために一室化したのである。これに対し、専門家の眼は外国における計画事例を導入し、現実の生活を分析して問題点を改善するという視点を備えていなかったという限界を指摘している。
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