○九州北部における近世の伝統的木造建築大工としては次の結果を得た。 1.福岡県、延1369人。佐賀県、延800人。大分県、延2399人の伝統的木造大工を収集した。 2.福岡市中央区簀子町に近世時在住していた大工「林」家の文書と調査で収集した棟札を照合して、大工「林」家は近世時、福岡市の社寺を中心に、宗像市、太宰府市の社寺にも関係していたことを明らかにした。 3.大分市古国府に近世時在住していた大工「利光」家の文書から府内藩の大工の組織を明らかにした。 4.大分県岡藩の大工文書から大工のヒエラルキー「上」「中」「下」「初位」「職付無位」を明らかにした。 ○九州北部における近世棟札の研究としては次の結果を得た。 1.収集した棟札は福岡県407枚、佐賀県165枚、大分県551枚で、この棟札の他に、山口県143枚や宮崎県274枚などを加えて、棟札の形態と寸法を明らかにした。また、棟札に隅切、入隅、猪の目などがあり、大きさは、必ずしも江戸時代の文献に記す吉寸が守られていないことを指摘し、随意につくられていることを明らかにした。 2.棟札の願文や様々な記号に注目し、道教にもとづく呪符や記号があることを明らかにした。 3.棟札に記された神々や仏達から、当時の人々の信仰の背景を探り、棟札に記す経文は『法華経』及び『無量寿経』が主であることを明らかにした。 4.棟札によって、大工の仕事内容、仕事場所、営業組織、賃金、税金などを明らかにした。 ○今後の研究の展開:各県の棟札をより詳細に分析検討し、近世の伝統的木造建築大工の諸問題を解明したい。
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