生体膜では電子輸送にカップリングして種々のイオン輸送が起こっている。これに対して本法においては、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に並べた系内の一部の陰イオン交換膜を電子選択透過性の膜(白金板)に置き換え、系内に発生する循環電流によって電子透過膜の両側で酸化還元反応を発生させ、イオンと電子の輸送をカップリングさせる。本年はこの系について、輸送の支配要因の解明と系の効率の向上を計ることを目的とした。 各室を白金板と陽イオン交換膜で隔てた2室型セルはこのような系の中で最も基礎となるものなので、これを用いて循環電流の効率を支配する要因を検討した。この系の実測循環電流と、電位差と溶液抵抗から計算される電流値の比として定義される効率は30%程度であるが、これ以上に効率が上がらない原因は、白金板表面での溶液中の酸化還元種から白金板への電子移動の過程での抵抗にある。この抵抗に及ぼす影響について検討したところ、酸化還元種の濃度が増大すると、電子移動にともなう抵抗が減少したが、ある濃度以上では一定値を示した。この抵抗は循環電流の大きさに対してこれを白金板界面で供給する酸化還元種の量で決ってくるものと思われ、撹拌強度を大きくすることによっても抵抗は低下するが、ある程度以上に撹拌強度を上げても抵抗の減少は見られない。2段階の酸化還元反応を系に組み込むと、電流値が大きな系では系の効率が向上するが、電流値が小さな系では系全体の効率は変わらない。しかし、電流値が小さな系でも1枚の白金板あたりの電子移動にともなう抵抗値はほぼ50%に減少するという興味ある現象を示した。 このシステムは生体膜に比してシンプルであるにもかかわらず、酸化還元反応は多くの因子に支配されている。この系の検討は、生体膜内における電子輸送現象と反応機構の解明に大きく寄与するものと思われる。
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