チタン酸ジルコニウムの単結晶合成、および多結晶焼結体の誘電性を主に研究した。その研究実績の概要を次に示す。 単結晶の合成は融剤法と帯溶融法とを研究している。融剤法ではモリブデン酸リチウム、三酸化モリブデン、チタン酸ジルコニウムを2:5:1のモル比で混同し、これを蓋つき白金るつぼに入れ、さらにアルミナるつぼに入れた。これを電気炉に入れ1300℃で6時間加熱したのち、毎分1.9℃の割合で冷却した。融剤を熱アンモニア水で溶解させた残留物にチタン酸ジルコニウムの針状単結晶を発見した。しかし、同単結晶は長いもので3mm程度であり、幅はその1/5と小さく、誘電性や光学性を測定するには不十分である。 帯溶融法ではより良い合成条件を求めて多数回の実験を行なった。まだ希望したような大きさの結晶は得られていないが、その中で最も良好な結晶が生成した条件を次に記す。上軸焼結体のジルコニアとチタニアのモル比を47:53(これが折出結晶の組成となる予定である)、下軸焼結体の同モル比を30:70(これが溶融帯になり、これと上記組成の結晶とが平衡関係にあるとの設計である)とし、上軸と下軸の回転速度をそれぞれ13と10rpm、送り速度を0.3mm/h。得られた結晶の光学顕微鏡観察により、3mm程度の透明な結晶の生成が認められた。現在、溶融帯とそれと平衡にある結晶の組成が上記とは異なっていることが、良好な結晶が育成できなかった第一の理由と疑い、再検討の実験を進めている。その結果を基に、良質の単結晶の合成を計画している。 チタン酸ジルコニウムに酸化ニオブと酸化イットリウムを置換固溶した系の焼結体の誘電性につき研究した。その結果、置換量の増加に伴い比誘電率が減少するという、酸化錫を固溶させた系と類似の現象が明らかになった。しかし、本系固溶体の急冷試料との除冷試料の比誘電率は、固溶量が増加しても顕著に異なり、別記系とは明らかに異なった。この結果は本化合物に関する筆者の仮説と整合する結果として注目された。
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