本研究では、新たに見いだした励起錯体を経る一重項増感光異性化反応を光学活性芳香族エステルをキラルな光増感剤として、環状オレフィン類の光増感不斉異性化反応を行った。その結果、過去25年間に報告された最高値6.7%を大きく上回る40%という、光増感異性化反応としてはかなり高い光学収率を得た。さらに、各種の理論化学計算を積極的に取り入れて、新規光増感剤の高精度分子設計を行い、これらのかさ高い置換基を導入した光学活性増感剤を用いた不斉光増感異性化反応では光学収率の面で大きな効果が認められた。また、かさ高くかつ電子供与性を有するフェニル置換光学活性の光学活性芳香族エステルを合成し、ドナー・アクセプター型の増感剤としたA-D-D'型のトリプレックスを経由する不斉光増感反応を行った。その結果、室温でも50%前後の高い光学収率が得られ、-90℃では最高70%という光増感異性化反応としては極めて高い光学収率を得た。 さらに、従来全く研究例のない光増感不斉付加反応に関する研究にも着手した。まずスチレン誘導体や芳香族ビニルエーテルの光学活性増感剤を用いる不斉光増感[2π+2π]環化光付加反応について検討したが、反応が極性溶媒でしか進行せず、得られた付加体の光学収率は極めて低かった。しかし、一見それよりもさらに難しいと考えられる不斉光極性付加を光学活性ナフタレン(ポリ)カルボン酸エステルを光増感剤として行ったところ、この系では低極性溶媒でも反応が進行し、光学収率も27%にもなることが判明した。 このように、本研究では従来の成果をはるかにしのぐ高い光学収率が得られる系を見いだした。さらに、全く新規な試みである不斉光増感極性付加反応では、極性溶媒を用いる一見不利な反応条件下でも27%と言う比較的高い光学収率が得られ、今後一層の進展が期待される結果となり、萌芽的研究の所期の目的を充分達したものと考える。
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