1 漆の樹液はラッカーゼ酵素により重合し、有機溶媒に不溶で、固く、耐熱性、光沢のある特異な塗膜を、形成する。合成化学的には、酵素活性のある不飽和側鎖を有するウルシオール及びその誘導体の合成法の確立が求められている。今年度我々は、このようにウルシオールの重合に極めて重要な役割を果す、不飽和側鎖を有する漆成分の合成を検討した。そのために不飽和側鎖材料として乾性油あるいはその成分を利用したウルシオール類の合成、更にそれらを用いたラッカーゼ酵素による重合を検討した。 2 不飽和側鎖材料として不飽和脂肪酸あるいは乾性油であるリノレン酸、リノール酸、オレイン酸あるいは亜麻仁油、桐油を用いた。一方カテコール環になる材料としてフラン化合物を出発原料として選び、電解酸化、水素添加及び酢酸メチルとの縮合反応を経てカテコール等価体を合成した。この化合物と不飽和側鎖材料から誘導したハロゲン化アルケニルとのアルキル化、加水分解、分子内アルドール反応を利用して種々のウルシオール誘導体である、アルケニルカテコール類を収率よく合成した。 3 これら合成した種々のアルケニルカテコール類をラッカーゼ酵素を用いて重合させ、有機溶媒に不溶な塗膜を合成した。これら合成した塗膜と中国産漆膜との比較するため重合速度、熱分析、鉛筆硬度、FT‐IRスペクトル、固体NMRスペクトルなどを測定し、比較し合成物と天然物の特性を比較検討した。
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