本研究はシアン耐性呼吸阻害剤で誘発される雄性不稔性の発現機構を明らかにすることを目的として、まず第1に、種子の発芽時の処理によっても誘発される現象について検討した。種子の発芽初期にはチトクロム系の呼吸と共に、シアン耐性呼吸系の活性が増大するが、この時阻害剤を処理してこのシアン耐性呼吸の高まりを阻止したところ、開花した植物体の中に不稔個体の出現を認めた。この現象の遺伝性については当該期間中には結論が出ず、なお研究を継続しているが、もし遺伝性が明らかになれば、さらに分子生物学的手法などを駆使してその発現機構の詳細に追ることが出来る。この種子の発芽時の処理によって誘発した雄性不稔個体について、葯の呼吸活性を比較したところ、全呼吸に占めるシアン耐性呼吸の割合が低い傾向が見られたが、シアン耐性呼吸そのものの活性はほとんど同じであった。葯中の花粉を極力除去したので、このシアン耐性呼吸活性は葯壁の活性を反映しているものと考えられ、チトクロム系の活性とのバランスが重要であるのかもしれない。他方、カブの肥大根とカリフラワーの花蕾から無傷のミトコンドリアを単離して、in vitroでタンパク合成に及ぼすシアン耐性呼吸阻害剤の影響を見たところ、カリフラワーから単離したミトコンドリアはカブに比べて、当阻害剤に極めて感受性を示し、タンパク合成を低下させた。従って、花芽分化後の胞子体組織では組織特異的にシアン耐性呼吸がその機能維持に重要な役割を果たしているのかもしれない。その他、小胞子初期にタペート細胞でフェニルプロパノイド系(特にフラボノイド類)の生合成が活発に行われないと不稔花粉を生じる可能性を示した。
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