根上り台木等による過去千五百年の標準年輪曲線の作成と気候復元

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03806025
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 末田 達彦 名古屋大学, 農学部, 助教授 (90109314)
• キーワード: 年輪気候学 / 気候復元 / 地球温暖化 / 小氷期 / 標準年輪曲線 / 木曽ヒノキ / 根上り台木 / 火山噴火の気候的影響

研究概要

本研究は、木曽ヒノキの『根上り台木』などを用いて中世に遡る中部山岳の標準年輪曲線を作成し、これをもとに歴史時代の気候変動を復元することを目的として行った。この年輪気候学的復元の主役をなす『根上り台木』とは、その上に倒木更新した樹齢三百年あまりの木曽ヒノキ現生木(根上り木、あるいは上木)を戴くことから、中世を生き、近世への変わり目に枯死したことが明らかな倒木で、何故か今日まで腐朽を免れ、木曽山中に散見されるものである。昨年までの研究で、これら根上り台木を樹齢300年の現生木に繋ぎ西暦1177年から現在におよぶ中部山岳の標準年輪曲線が完成しているが、本年度はこの年輪曲線を用いて、過去の気候復元と火山噴火の気候的影響に関する解析を行った。
まず気候復元では、この標準曲線から過去800年(西暦1177年〜)にわたる中部山岳の冬季気温と夏期降水量の年次変動を復元した。その結果、15世紀後半〜19世紀前半に現在より1.5℃ほど寒冷な低温期があったが、それ以降は現在に至るまで若干の変動を伴いながらも明白な温暖化が続いていることが判った。降水量は気温とほぼパラレルな傾向変化を示し、ヨーロッパの小氷期に対応する上記の低温期には現在より100ミリ/年ほど少なかったが、1800年代中葉から明らかな増加傾向に転じている。この復元気候から中部山岳にも地球温暖化の傾向が顕著に表われていることが判明した。
また、本年輪曲線と過去の火山噴火の関係を解析したところ、南極やグリーンランドの氷床にまで硫酸降下の痕跡を残すほどの大規模な噴火の直後には、年輪成長が顕著に低落し、それが10〜20年ほど続くことが判った。この結果は、火山噴火で成層圏にまで吹き上げられた硫酸エアロゾルがその日傘効果により気候を寒冷化させるという気象学上の仮説を裏付けるものである。

研究成果

• [文献書誌] Sweda,T.: "Forest Management under Changing Global Climate." Proc.IUFRO Conf.on Advancement in Forest Inventory and Forest Management Sciences. 423-434 (1993)
• [文献書誌] Sweda,T.and Kumagai,H.: "Climatic Effects of Past Major Volcanic Eruptions on an 800-year-long Dendrochronology from Central Japan." Abstr.IGBP PAGES-INQUA COT Meeting on “Climatic Impact of Explosive Volcanism". 12 (1993)
• [文献書誌] 武田信一,末田達彦: "長さ800年の木曽ヒノキ標準年輪曲線の作成" 日林論. 104. 333-334 (1993)
• [文献書誌] Sweda,T.and Takeda,S.: "Tree-Ring Reconstruction of the Last Submillenial Climate of Central Japan." Proc.PAGES Workshop on High Resolution Records of Past Climate from Monsoon Asia:The last 2000 years and beyond:. 49-51 (1993)
• [文献書誌] Sweda,T.and Takeda,S.: "Construction of a 800-year-long *Chamaecyparis* Dendrochronology for Central Japan." Dendrochronologia.(in press).
• [文献書誌] Sweda,T.: "Dendrochrolological Reconstruction of Last Submillenial Climate of Central Japan." Terrestrial,Atmospheric and Oceanice Sci.(in press).