研究概要 |
10種類の褐色腐巧菌の木材分解力を測定した。Gloeophyllum trabeum(キチリナンタケ)が常に強い木材分解力を示したので,この菌を用いて,木材中のリグニンを変質し,セルロ-スの結晶構造を壊し,木材細胞壁の微細構造を変形する物質の単離を試みた。木粉培地でキチリナンタケを培養し,キチリナンタケが細胞外に分泌する物質を水抽出した。この粗抽出液より,アセトン沈澱,硫安沈澱,ゲルクロマトグラフィ-,液体等電点電気泳動等によって,分子量が1500〜2600の糖一ペプチドを得た。この糖一ペプチドはFe(II)を20〜30分子当り1個含んでいた。さらにこの糖一ペプチドは1分子に1個の割合でFe(II)を強く吸着した。この糖一ペプチドはNADH等の電子供与体の存在下でO_2をO^ー_2,H_2O_2を経て・OHまで還元した。この活性はFe(II)の含量に比例した。木材を分解した他の褐色腐巧菌も同様の糖一ペプチドを細胞外に分泌した。しかし木材を分解できなかった菌からはこの糖一ペプチドを分離できなかった。以上より褐色腐巧菌は木材の初期分解において,Fe(II)を強く吸着する低分子の糖一ペプチドを細胞外に分泌し,これが木材細胞壁中に拡散し木材中のFe(II)を吸着し,S_2層において電子共与体の存在下で,O_2を水酸化ラジカル(・OH)まで還元し,生じた・OHが木材細胞壁中のセルロ-スの細晶構造を壊し,リグニンを変質させ細胞壁の微細構造をCx系一セルラ-ゼが透過できるように変化させ,S_2層に拡散したCxーセルラ-ゼがヘミセルロ-ス,セルロ-スを分解するものと推定した。
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