研究概要 |
前年度において,白色腐朽菌(担子菌),褐色腐朽菌(担子菌),および軟腐朽菌(子のう菌,不完全菌)を用いて,木材,天然セルロース,リグニンモデル化合物に対する分解力を測定した。同時にそれらの菌類のセルラーゼ活性,フェノールオキシダーゼ活性および一電子酸化活性を測定した。そして木材を分解する際はどの菌類も一電子酸化系を菌体外に分泌し,一電子酸化活性を発現することを見いだした。今年度は褐色腐朽菌と白色腐朽菌から一電子酸化に関与する物質を分離し,その物理的化学的性質について検討した。褐色腐朽菌を木粉を添加した培地で培養し,菌体外分泌物質を水抽出し,アセトン沈殿,ゲルロ過等によって一電子酸化物質を分離した。この物質は分子量が1500〜3000の低分子の糖ペプチドであった。この物質は2価の鉄を含んでいた。この物質はNADH等の電子供与体の存在下で,酸素分子(O_2)を還元して,スーパーオキサイド(O^<・^^->_2)を経て過酸化水素(H_2O_2)を生成することがわかった。さらにH_2O_2を還元して水酸化ラジカル(・OH)にすることを証明した。白色腐朽菌からも類似の物質を分離した。この一電子酸化系の発現量の経時的変化と褐色腐朽菌および白色腐朽菌の木材分解速度の経時的変化は同じ傾向であることから,この一電子酸化系は木材分解において重要な働きをしているものと推定した。次にこの糖ペプチドの合成に関与するm-RNAを特定するために,この糖ペプチドを抗原として,うさぎよりこの糖ペプチドの抗体を分離した。
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