本研究は天然倍数体の出現機構とその産地の解明から、遺伝資源保全をはかるとともに、これらの変異体を素材とした倍数体育種技術の開発をすることを目的として行ない、以下の成果を得た。 1.ドジョウの天然四倍体(4n)は集荷業者由来の標本に多くみられ、岩手、茨城、広島等の各地水系より採集した標本中には見られなかった。一方、天然三倍体(3n)は上記集団中ならびに養殖業者由来の標本のすべてで低い頻度で出現した。しかし、これらが交雑により生じたのか、受精後の過程で自然に生じたのかを特定することはできなかった。 2.ドジョウの天然4nと通常の二倍体(2n)において、紫外線照射により、遺伝的に不活性化した異種(コイ等)由来精子を用いた雌性発生の誘導を行うと、前者からは生存性の、一方、後者からは致死性の仔魚が得られた。このことから天然4nドジョウは4セットの染色体を有し、その配偶子は2nのゲノムをもつことが強く示唆された。 3.染色体観察の結果より、2nと4nの交配に由来する子孫は三倍体(3n)であることが判明した。そして、これらの交配の後、受精卵に温度処理を加えることにより染色体数倍化をはかると、四倍体、五倍体等の高次倍数体が比較的容易に生産可能であることが判明した。 4.ドジョウと同じ科に属するシマドジョウには、大型、小型の二種族があり、これらの核型は近似的に倍数関係を示すことが既報にあるが、その遺伝様式は不明であった。そこで、ドジョウと同様に紫外線照射精子による雌制発生を試みたところ、小型種族からは致死性の般数体が生じたのに対し、大型種族からは正常仔魚が出現した。この結果から、シマドジョウ大型種族も染色体4セットを有する真の四倍体であり、四倍性変異体としての利用が可能なことが判明した。
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