本研究はドジョウ類を材料に天然倍数体の出現機構ならびにこれら変異体の遺伝の様式と特性の解明から、魚類における倍数体育種の基礎的知見を得ることを目的として行ない、以下の成果を得た。 1.ドジョウ天然四倍体(4n)は集荷業者由来の標本に多くみられ、各地水系より採集した標本には見られなかった。一方、三倍体(3n)は各地の標本に低い頻度で出現した。 2.ドジョウ2nおよび4nの卵を紫外線照射により遺伝的に不活性化した精子で受精し、雌性発生を誘起すると、前者からは致死性の、後者からは生存性の稚魚が得られた。同様の結果は、シマドジョウ小型(2n)、大型種族(4n)の卵を、雌性発生させた場合も得られた。以上の事実はドジョウ天然4nとシマドジョウ大型種族は、4セットの染色体セットを有し、遺伝様式の上からも四倍体であることを示す。 3.ドジョウ4nと2nの間の交配より生じた3nおよび交配後、第2極体放出を阻止して作出した五倍体(5n)はいずれも生存性であり、雌は成熟卵を産した。3n、5n由来の卵を正常2nの精子で受精した場合、生存性の稚魚が得られた。紫外線照射を媒精し、雌性発生を誘起、また、第2極体放出阻止を行なった場合も生存性の稚魚が得られた。以上の事実は、3n、5nの妊性ならびにその子孫の生存性を示す。 4.3n雌は、大型、小型の卵を産む場合があり、大型卵の出現率は、雌の家系により異なった。大型卵からは、正常稚魚の生じる率が小型卵に比べて高かった。 5.3n、5nは奇数の倍数体にかかわらず妊性をもち、正常な子孫を残すことから、異数性をじない特殊な配偶子形成機構の存在が示唆された。
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