研究概要 |
本研究では、高等脊椎動物の生体時計である視交差上核が果たして魚類でも生体時計として機能しているかどうか、また、眼や松果体あるいは脳内光受容器などの光感覚器官と視交差上核との機能的な関連について明らかにすることを主な目的とし、次のような実験結果を得た。 1)数種の淡水魚を用いて、恒暗下における遊泳行動を赤外線センサ-により検出し、少なくとも1カ月以上連続記録して、行動記録途中における一定期間のデ-タを抽出し,周期解析によってサ-カディアンリズムの存在を確認したところ、ナマズでは活動期にスプリッティングが観察されたが、他の魚種(ニジマス、アユ、コイ)では観察されなかった。観察されたスプリッティングの特長としては、その出現に個体差が見られることと、持続期間が非常に短いことであった。これらの結果は哺乳類の知見とは大きく異なっているため、魚類の生体時計は哺乳類のように視交差上核一ケ所だけに存在しているのではなく、視数の部位に分散して存在している可能性が考えられた。 2)視交差上核の破壊あるいは電気刺激によるスプリッティングの変動,消長については、今回用いた魚種では視交差上核部位が動確に特定できない場合が多く、現在もさらに検討中である。 3)両眼ないし松果体を摘出すると、サ-カディアンリズムの周期の長さが変動することから、両方の器官とも生体時計に対して同調要因である光情報を入力していることが分かった。 4)両眼ないしは松果体を摘出した個体でスプリッティングを観察したが、いずれの個体からも明瞭なスプリッティングが得られなかった。この結果は、スプリッティングの発現に両器官が重要な働きをしている可能性を示しているので、今後さらに継続実験が必要な検討課題であると考えられる。
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