近年、微生物から高等動植物に至る多くの生物に種々のDーアミノ酸が見出されている。水産動物にもDーアラニンやDーアスパラギン酸が存在するという報告があるが、研究例は少ない。一方、プロリンとグルタミン酸を除く多くのアミノ酸のD型は甘味を持つことが知られている。したがって、Dーアミノ酸が存在した場合、食品の呈味に及ぼす影響は大きい。そこで、美味な種類の多い、水産動物における遊離Dーアミノ酸の分布を調べた。 1.まず、Dーアミノ酸オキシダ-ゼはアスパラギン酸とグルタミン酸を除くDーアミノ酸をニンヒドリン陰性のケト酸に替え、Lーアミノ酸には活性を示さないことを確かめた。次に、二枚貝のミルクイ、バカガイ、ホタテガイの可食部から80%エタノ-ルエキスを調製し、Dーアミノ酸オキシダ-ゼで処理後アミノ酸自動分析計に付し、処理前の遊離アミノ酸量と比較した。その結果、Dーアミノ酸をかなり多量に含む場合は測定可能となったが、少量ないし痕跡程度の場合、それらの存否は不明であった。そこで、10%HC1含有プロバノ-ルとトリフルオロ無水酢酸(TFA)でエキス中の遊離アミノ酸をプロピルエステルーTFA化し、ChirasilーValカラムを用いるガスクロマトグラフィ-によりDおよびLーアミノ酸を分離したところ、アラニンに関しては微量でも検出可能となった。 2.軟体動物の斧起綱(二枚貝類)11類(上記3種を含む)および腹足綱(巻貝類)5種の可食部から80%エタノ-ルエキスを調製し、1の方法を用いてDーアミノ酸の分布を調べた。Dーアラニンは二枚貝類の異歯目に属する種類に多量検出され、ミルクイでは820mg(組織100g中、以下同様)にも達したほか、ホッキガイ(400mg)、バカガイ(370mg)、ハマグリ(235mg)などに多かった。これらの種類では、Dーアラニンの全アラニンに対する割合はいずれも50%を超えた。また、二枚貝類の翼形目および巻貝類には少なく、多いものでも10mgに満たなかった。
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