新鮮鶏卵卵白中の濃厚卵白より粗オボムチンを得、さらに常法に従って高シアロ糖蛋白質を分画した。この区分をHSGTとする。これは卵白中に不溶型βーオボムチンとして存在し、易熱性で400kDという分子量を有していた。このHSGTをトリプシン処理して高シアロ糖ペプタイド(HSGPE)を分画した。これらの物質をin vitroにおいて腫瘍細胞の培地中に添加することによって、細胞膜表面のマイクロビリに著明な変性を与えることを前年度に報告した。この作用機序については、腫瘍細胞の膜表面だけに作用しているのか、あるいはDNA合成にも影響をおよぼしているのかを検討するために6-^3Hチミジン(^3H-TdR)を用いて、細胞内の取り込みによるHSGT、あるいはHSGPE添加後の腫瘍細胞のDNA合成能を測定した。腫瘍細胞にはHepatoma cell、^3LL cell、SR180 cell、SEKI cell、IMR90 cellを用い、細胞数は10^4〜10^5個/2mlとした。これらの各種腫瘍細胞において、^3H-TdRの取り込みはHSGTの添加群では15〜40%の減少が認められた。腫瘍細胞により差が認められたが、これはHSGTに対する感受性がその細胞により異なっていることによると推論した。しかし、正常体細胞はHSGT投与によってほとんど影響を受けなかった。以上のことから、HSGTは腫瘍細胞の膜表面だけに変化を与えるのではなく、核内のDNA合成能も阻害することによって細胞増殖活性を低下させるものと明らかにした。一方、HSGPEはHSGTよりも弱いながら同様の活性を有していた。なお、HSGTとHSGPEの化学的・物理的性質についても解析し、それらの特異性も明らかにした。平成4年度科学研究費補助金にて購入した分光光度計とペンレコーダーは、細胞の数および獨度の測定およびその記録に有効利用した。
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