我々は殺ミクロフィラリア薬である塩酸レバミゾ-ルを犬糸状虫寄生犬に経口投与したところ血清中にポリアクリルアミドゲル電気泳動でトランスフェリンの陽極側に著しく増加するタンパク質のあることを認めた。このタンパク質をPT60と仮に名づけ、そのタンパク質がなんらかの肝障害を反映するタンパクである可能性を第110回日本獣医学会で指摘した。本研究では、(1)PT60を多量に産生している犬の血清からPT60を分離精製し、分子性状を明らかにすること、(2)PT60のアミノ酸末端の構造を試み、既知のタンパク質との異同を調べる、(3)薬物投与、肝疾患等によりPT60がどの様に変動するかを経時的に測定し、肝臓機能の変化とPT60の出現との関係を明らかにすることを企画した。 1.Milbemycin Oxime内服犬の血清中PT60の変動を調査したところ、増加が確認された。PT60の分子量はゲル濾過では100KDaで、SDSーPAGEでは57KDaであった。このタンパク分子は、分子サイズ19KDaと37KDaの二つのサブユニットから成り、ホモグロビンと結合して複合体を形成した。二重免疫拡散法で、このタンパク質に対する抗血清は犬のハプトグロビンと反応した。このタンパク質の二つのサブユニットのN末端アミノ酸配列は、犬のハプトグロビンのそれとそれぞれ一致した。これらの分子性状から、我々はタンパク質をハプトグロビンと同定した。 2.四塩化炭素内服で実験的肝障害を作出させた犬の血清についてPT60の変動をポリアクリルアミドゲル電気泳動法で経時的に調査した。薬物投与後、血清酵素AST、ALTは顕著に増加したが、Pt60の増加は著明ではなかった。
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