松果体は、発生の起源・様式に網膜と多くの類似点があり、魚類・両生類・鳥類などでは、光受容能もある。ところが、網膜で見られる細胞分化の多様性と比較すると、松果体にはごく少数の細胞タイプが見られるに過ぎない。本研究は、松果体の潜在的な細胞分化能性、ことに神経細胞の分化能を明らかにし、次いで分化形質発現の抑制または促進の機構を解きあかすことを目的とする。 本研究では、ラットやトリ胚の松果体を用いて研究を進め、初年度においては松果体細胞に多様な神経細胞の分化能が潜在していることを明らかにした。次いで、2年度においては、なぜこれらの分化能が組織では発現しないのかという問題に、発現の抑制因子の存在および分化を促す因子の欠如の2面からアプローチした。これらの結果を以下にまとめる。 1.ラット松果体の研究 (1)新生仔ラット松果体を培養すると、視細胞が多数分化する。ノルエピネフリンはこの分化を抑制するが、αおよびβの両受容体を介していることが明らかになった。 (2)神経細胞特異抗原、HPC-1とMAP2の発現は、脱分極を誘発する濃度のKC1の添加によって非常に促進される。これは、神経細胞分化が別の神経細胞の存在に依存することを示す例である。 (3)GABA神経細胞の分化を誘導または阻害するメカニズムは不明である。 2.トリ胚松果体の研究 (1)トリ松果体には、組織では発現されない多様な神経細胞の分化能がある。これらの発現または抑制のメカニズムは、今後の研究によって明らかにしなければならない。 (2)胚の網膜培養上清液中に、松果体視細胞の分化を促進する因子が存在することが確かめられた。新しい分化因子である可能性があり、今後精製する予定である。
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