シナプス伝達において放出されたグルタミン酸(Glu)の大部分はアストログリアによりNa^+濃度勾配依存性に取り込まれるとされている。これまで神経の生化学的標品としてシナプトソ-ム(Syn)が盛んに用いられてきたが、グリアの機能を検証するための標品は知られていなかった。我々はSynの分画中に、シナプス成分とは明らかに異なる分画に高いGlu取り込み活性があることに気付き、以下の諸性質からこの分画はグリア細胞膜小胞(GPV)を豊富に含むと結論した。 ラット海馬ホモジネ-トのいわゆるP_2分画をパ-コ-ル密度勾配遠心すると、Glu取り込み活性は比重1.06のSynと1.046のGPVに分かれた。両者とも取り込み活性に外液のNa^+が必要であった。またGABA取り込み活性も両者にみられた。しかしGPVの高親和性コリン取り込みやコリンアセチル基転移酵素の活性はSynに比しはるかに低かった。Naチャネルアゴニストであるさそり毒、ベラトリジンによるGlu取り込み阻害はSynにより強くみられた。電子顕微鏡による観察では0.2umの球型小胞と0.3ー0.8umの不定型小胞がGPVに豊富にみられた。GPVのグリア機維性酸性タンパク質の含量はSynよりはるかに高かった。 GPVとSyn両者のGlu取り込み反応の速度論的解析を行ったところ、GPVのGluに対する親和性がSynのそれの2倍であり、Naのヒル係数がSynが2であるのに対しGPVでは1であったことから、ニュ-ロンとグリアのGlu取り込み機構あるいはその輸送体が異なっていることが強く示唆された。この異なった2つの輸送機構により、シナプス近傍に於けるGluのスカベンジングおよび代謝回転が巧妙に維持されていると考えられる。
|