平成3年度の研究において我々は細胞老化遺伝子のクローニングを試み、その候補遺伝子C‐1を得た。本年度はこのC‐1遺伝子の発現調節およびC‐1蛋白質の細胞増殖停止機構について検討し、以下の結果を得た。 1、細胞老化におけるDNAメチル化の変化とC‐1遺伝子発現の関連性:ヒトの正常線維芽細胞は、分裂のたびごとにメチル化したDNAの割合が減少し約50回分裂した時老化するが、この時C‐1遺伝子の発現上昇が見られる。正常細胞にSV40Tを導入すると寿命が50回から80回分裂まで延長するが、この間にメチル化は減少しないで、C‐1遺伝子の発現も80回になるまで上昇しない。このことから、DNAのメチル化の減少のみがC‐1遺伝子の発現を誘導するものではないと考えられる。 2、細胞老化において減少するテロメアとC‐1遺伝子の関連性:正常細胞もSV40Tで寿命を延長させた細胞もテロメアは分裂のたびごとに少しずつ均等に短縮する。このことから、C‐1遺伝子の発現は50回ではなく80回の老化時のテロメア短縮が引きがねとなって誘導されると考えられる。ちなみにC‐1遺伝子が欠失し、不死化している細胞では、テロメラーゼの活性があることが観察された。 3、C‐1遺伝子の構造解析と遺伝子産物の分析:C‐1蛋白質はHLH構造をもった酸性蛋白質であり、2番目と3番目のヘリックスの端には酸性アミノ酸がつらなっており、ヘリックスとループのつなぎ目には、PKCとCKIIによるリン酸化サイトがある。C‐1蛋白質は塩基性アミノ酸が連続している蛋白質と結合し、その働きを調節していると考えられる。 以上の結果は、C‐1遺伝子は50回あるいは80回分裂して細胞がクライシスになったとき発現し、細胞の増殖を止める遺伝子であることを示唆する。C‐1遺伝子ががん細胞の増殖を抑制するかどうかは、現在、不死化細胞にC‐1遺伝子を導入して検討中である。
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