研究概要 |
Werner症候群では豊富な実験材料を得るのが困難であったため、まず老化機構が消失していると考えられる不死化細胞の解析から着手した。ヒト二倍体線維芽細胞MRCー5にSV40のT抗原遺伝子を導入した48個のtransformed clone(HuSlーL)のうち、HuSlー123とHuSlーL12よりそれぞれ3個(IML23ー1〜3)、5個(IML12ー1〜5)の不死化細胞クロ-ンを得た。不死化前の親クロ-ンと不死化細胞クロ-ンの比較解析から、(1)不死化のメカニズムはtransformationのメカニズムとは根本的に異なっていること、(2)不死化に重要な変異がクライシスの時期に起こっていると推定され、それには特定の染色体の脱落が関わっているかもしれないこと、を明らかにした(Imai et al,submitted)。(2)の結果より我々は、「細胞の不死化は、細胞老化に関与している遺伝子の発現がクライシスの時期に消失することに因る」との仮説を立てた。この仮想的遺伝子を単離するため、クライシスの直前直後のHuSIーL23及びIML23ー1を用いて、subtractive hybridizationの手法により、不死化後に発現の消失している遺伝子をクロ-ニングした。HuSIーL23のcDNAライブラリ-より5×10^4個のクロ-ンをスクリ-ニングした結果、全RNAを用いたNorthern blottingにおいて、不死化後に発現の消失しているcDNAクロ-ン1個を得た。塩基配列の解析よりこのcDNAクロ-ンは、ヒトコラゲナ-ゼの遺伝子であることがわかった。Werner症候群の線維芽細胞ではコラゲナ-ゼ遺伝子の発現が約8倍も上昇していることが報告されており(Buaer et al,Science 234,1240ー1243)、細胞老化機構におけるコラゲナ-ゼ遺伝子の関与が強く疑われた。そこで我々は、コラゲナ-ゼcDNAをSRaブロモ-タ-の下流にセンス及びアンチセンスの方向につないだプラスミドを構築した。これよりこれらのプラスミドをWerner症候群の線維芽細胞に導入し、分裂寿命に対する影響を調べる予定である。
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