1)気管支上皮細胞の形態や機能の維持にレチノイン酸リセプターβ(RARβ)が果たす役割を明らかにすること、2)呼吸器疾患とくに肺癌においてRARβ遺伝子の構造異常や発現異常が果たす役割を明らかにすることを目的とした、肺癌細胞株よりtotal RNAを抽出して、ノーザンブロット法ならびにRNAseプロテクション法でRARβ遺伝子の構造異常や発現異常の有無を検討した。 いずれの肺癌細胞株においても、ノーザンブロット法においてもRNAseプロテクション法においてもRARβ遺伝子の発現を認めなかった。このことは、RARβ遺伝子の発現異常とくに発現の喪失が、肺癌の発癌や進展において重要な役割を担っている可能性を示唆するものである。さらに外部からのレチノイン酸の投与が、発癌や進展の予防や治療につながることを示唆するものかもしれない。なぜならば、レチノイン酸の投与によって、RAR遺伝子の発現が誘導され、レチノイン酸とRARのactiveな複合体がつくられて作用することが知られているからである。 今後は、外部からのレチノイン酸投与やRAR遺伝子の細胞内への遺伝子移入によって正常細胞のトランスフォメーションを予防できるか否か、癌細胞を正常細胞にリヴァージョンできるか否かを検討することによって、レチノイン酸-RAR系の臨床応用の可能性を明らかにする必要がある。
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