本研究においては、肺気管支系の発生におけるレチノイン酸の果たす役割を明らかにすることを目的として、レチノイン酸リセプター(RAR)aならびにbの遺伝子発現を検討した。 その結果、RARa遺伝子の発現は、ノーザンブロット法上、ヒト成人肺、ラット成体肺、ラット新生児肺において認めた。肺の組織成熟や臓器機能の維持のためにレチノイン酸、RARaが重要な役割を果たしていることが窺われた。一方、RARb遺伝子の発現は、ノーザンブロット上、ヒト成人肺、ラット成体肺、ラット新生児肺のいずれにおいても認められなかった。RARb遺伝子の発現はRARaのそれに比べて組織特異性が高いことが示された。 RARb遺伝子は原発性肺癌で高率に欠失を認める第3番染色体短腕に存在することから、肺癌細胞株におけるRARb遺伝子の発現ならびに異常をRNAseプロテクション法で検討した。いずれの肺癌細胞株においてもRARb遺伝子の発現を認めなかった。このことはRARb遺伝子の発現異常とくに発現の喪失が、肺癌の発癌や進展において重要な役割を担っている可能性を示唆するものである。 今後は、外部からのレイチノイン酸投与やRAR遺伝子の細胞内への遺伝子移入によって正常細胞のトランスフォメーションを予防できるか否か、癌細胞を正常細胞にリヴァージョンできるか否かを検討することによって、レチノイン酸-RAR系の臨床応用の可能性を明らかにする必要がある。
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