1.温痛覚の生理学的検索 昨年度までの研究により、CO_2レ-ザ光線を低出力、長波長で皮膚に与えると、侵害受容器を刺激し、末梢神経の小径有髄線維(Aδ)から脊髄視床路を上行することを報告してきた。本年度は、CO_2レ-ザ-光線刺激によって大脳より出現する反応(痛覚SEP)を用いて、これらの伝導路の伝導速度を計測した。末梢神経の伝導速度は約10m/秒であり、Aδ線維の伝導速度に合致したものであった。脊髄視床路の伝導速度はやはり約10m/秒であった。脊髄後索の伝導速度は約50ー60m/秒であり、それに比してかなり遅いものであるが、脊髄と末梢神経の伝導速度がほぼ同様のものと仮定すれば、矛盾しない所見である。ヒトの脊髄視床路の伝導速度の報告は未だ無く、今後の報告がまたれるところである。 2.痛覚SEPの臨床応用 CO_2レ-ザ-光線刺激による痛覚SEPを各種神経疾患に利用した。末梢神経障害(neuropathy)患者において臨床的な感覚障害および腓腹神経の生検結果と比較した。すると、従来よりおこなわれている電気刺激によるSEPの結果は、深部感覚障害および大径有髄線維の線維密度の変化と、また痛覚SEPは温痛SEPは温痛覚障害と小径有髄線維の線維密度の変化と一致した所見を示した。脊髄空洞症は脊髄中心部が侵されるため、温痛覚のみが髄節性に障害されるのが特徴である。8例の脊髄空洞症患者では、電気SEPは全例正常であったが、痛覚SEPは髄節性の異常を示し、痛覚のSEPが脊髄視床路および脊髄後角の障害を反映することを示唆するものであった。
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