温痛覚機能の生理学的検索 本年度は、CO_2レーザー光線を用いて頭皮上より記録される痛覚関連体性感覚誘発電位(痛覚SEP)を用いて、痛みのメカニズムの探求と、痛覚SEPの臨床応用を主目標として研究を継続した。 痛みのメカニズムに関する著名な仮説の一つであるGate control theory(Melzack&Wall)は、適当な刺激および記録方法が無かったため、その機序は十分には解明されていない。痛み刺激を与えている部位への振動覚刺激およびその部位の自発運動により、痛覚SEPは著明に振幅減少、潜時延長し、痛覚閾値は上昇、また痛みに対する反応時間も延長した。これらの結果より、『痛覚認識は同時に与えられる末梢神経大径線維を上行する刺激により低下する』というGate control theoryの主要仮説を証明することができた。 また、各種神経症患患者に対する臨床応用も幅広く行ってきた。既に昨年度、末梢神経障害と脊髄空洞症について報告した。本年度は、さらに多数例の末梢神経障害における分析を行い、痛覚SEPの結果と温痛覚障害の程度に高い相関がみられることを報告した。また脊髄症患者のうち、多発性硬化症およびHTLV-I-associated myelopathy(HAM)患者における結果を報告した。痛覚SEPの結果は、やはり温痛覚障害の状態を極めて明瞭に反映しており、脊髄視床路の生理的機能を検索することが可能であることを証明した。また潜在的病変の検出も可能であった。現在さらに他の各種神経症患患者においても検索を行い、興味ある結果を得つつある。
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