ミエリン塩基性タンパク(MBP)は強い脳炎惹起性を有するが、その抗原特異部位は、ヒトの場合まだ詳細は不明である。本研究では日本人のMBPの抗原特異部位について検索し、これまで主に欧米人で報告されたMBPの抗原特異部位と比較し、人種差について検討した。前年度の本研究では健常者のMBPに対するT cell株の出現頻度は短期T cellクローニング法では培養T cell株の4.1%と欧米人のそれと変わりがなく、また、MBP T cellの抗原特異部位の検討では欧米人で報告されたMBPアミノ酸配列の84‐102、143‐168に対し多数のT cell株が特異的反応を示した。今年度は更に、多発性硬化症患者で同様の解析を試みた。全多発性硬化症患者のMBP T cell株の出現頻度の平均は7.0±4.4%であり有意差は認められないが、健常者に比べ増加していた。MBPの抗原特異部位まで確定できたT cell株は32株であった。このうちMBP 84‐102に対し8株(20.0%)を認めたが、各々の患者においてMBP 84‐102に対するT cell株は6例中5例で認め、特に症例3では、得られた6株中4株(66.7%)がMBP 84‐102に対するT cell株であった。また、MBP 143‐168には6例中3例で、計6株(15.0%)が得られ、健常対照と同様にこの二つの部位に対するMBP株を他の部位に比しより多く認めた。この結果、ヒトMBPの抗原特異部位は、人種を越えて共通である可能性が考えられた。次年度はMBPの抗原特異部位とMHC classII抗原との関連について検討する予定である。
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