在胎96〜107日(満期145日)の羊胎仔を用い、胎仔が胎内で生存した状態で以下の実験を施行した。妊娠羊(4頭)を腰椎および静脈麻酔し、開腹して子宮を切開、胎仔の胸部を露出し、左側開胸して上行大動脈を剥離し、3号絹糸を大動脈弁直上でその周囲にまわして徐々にこれを絞扼して直径を1/2とし、大動脈狭窄を作製してこの絹糸を留置した。閉胸して母体の子宮と腹壁を閉じ、超音波心エコ-を用いて胎仔の心室形態と左右心拍出量に注目して経過を追って観察し、ビデオテ-プに記録した。 4頭の内1頭は手術後の母体の細菌感染症により失ったため、3頭において長期間の観察が可能であった。得られた結果の主なものとして、胎仔において1)上行大動脈の絞扼術が可能であり、慢性的な狭窄が作製できた。2)1ヶ月の観察期間中に左右心室径の比率(LVD/RVD)は手術前の0.92から0.59へ有意に減少した。3)同観察期間中に左右心拍出量の比率(LVCO/RVCO)は手術前の0.69から0.3へ有意に減少したが、総心拍出量(両心拍出量の和)し減少しなかった。4)これらの変化は左心低形成症候群と類似していた。 これらの結果から導き出されるのは、「本法により羊胎仔において大動脈狭窄による左心低形成症候群の実験モデル作製が可能であった」ということであり、本年度(1992年度)は本症患をバル-ンカテ-テルを用いて胎内で治療してその効果を判定する予定である。
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