先天性代謝異常症は尿などの有機酸、アミノ酸を分析することで化学診断が可能である。著者らは国内の依頼には凍結試料を用いてきたが、海外から凍結試料を送付することは手間および費用の面で、非常に困難である。 化学診断システムの国際化には試料の輸送法が最大の検討事項である。この点を検討するため、異常成分を混合した合成尿を浸みこませた乾燥ロ紙を作成し、中国、ブラジル、チリ、米国の協力機関に年4回送付した。これらの協力機関から検体の入った封筒をそのまま直ちに返送してもらい、その検体を分析に供した。これらの結果を、冷凍保存しておいた検体を対照に、輸送上の問題として季節(気温、湿団など)、輸送に要する時間、地域の特殊性などによる影響ついて検討を行なった。協力機関は北半球と南半球の国々であり、夏期と冬期を同一時期に検討することになった。その結果、輸送に要する日数や、種々の条件による影響は無視できるほど小さく、乾燥ロ紙による輸送法を本システムに採用し得ることを明らかにした。 しかし、実際の化学診断は迅速性が要求されるため、さらに時間短縮について、通常の航空便と郵送料は高額ながらほぼ2倍の速度のEMS(国際ビジネス郵便)で比較検討した。その結果、上述の通り分析結果には影響はなかったが、時間の短縮が可能であり、急を要する化学診断のためEMSによる輸送は有用であることから明らかになった。しかし、中国のようにEMSを利用しても効果がほとんど上がらないところがあり、今後の課題として残された。結果の報告には時差に関係なく送信できるファクシミリ通信が有用であることを確認した。 協力機関のみならず、その他の機関から実際の試料の分析依頼は予想以上に多く、早急に国際的システムとして確立する必要があり、本システムの運営方法(特に経費の問題)を含めて検討する必要が生じてきた。
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