研究概要 |
ヒトの皮膚悪性腫瘍の発症に関しては、紫外線や一部の化学発癌物質などの関与が推定されているが、未だにそのメカニズムは解明されていない。近年、癌抑制遺伝子、即ち、正常細胞ではその遺伝子産物が細胞の癌化を抑えており、変異や染色体の欠失によりその正常な遺伝子産物が失われることが癌化につながるという概念が提唱されていたが、この数年、分子生物学の急速な進歩により、ヒトゲノムの解析が可能となり、RFLPをもちいて正常組織と癌組織を比較することによって、特定の染色体の欠失を同定し、癌抑制遺伝子の存在を明らかにすることができるようになってきた。本研究は、この方法をヒト皮膚悪性腫瘍ゲノムの解析に導入し、特定の皮膚悪性腫瘍に共通する染色体欠失を遺伝しレベルで検索することにより、その発症に関わる癌抑制遺伝子にアプロ-チしようとするものである。このLOH(Loss of heterozygosity)を検出し、腫瘍に共通する染色体欠失をDNAレベル解析するには、出来るだけ多くの検体が必要なので、本年度はまず、手術的に切除した皮膚悪性腫瘍組織、および同一患者の白血球を採取することに勤めた。得られた腫瘍および白血球からそれぞれゲノムDNAを抽出し、それらを定量の後、その一部を制限酵素処理に供した。解析のマ-カ-プロ-ブとして、本年度は、現在のところ最もサンプル数の多い基底細胞癌の組織のDNAとその個体の正常DNAを制限酵素処理し、癌抑制遺伝子Rbのマ-カ-プロ-ブであるp7F12、p68RS2.0、p53のプロ-ブYNZ22を用いてハイブリダイゼ-ションを行なった。それぞれのHybridizationにおいて約半数がinformative,それぞれの遺伝子についてヘテロ接合体であり、2つのalleleを区別することができた。しかし、LOHは見られていない。従って、すくなくともこの二つの癌抑制遺伝子については基底細胞癌の発症に関与する遺伝子とは考えにくい結果である。次年度には、他の染色体領域について解析を進める計画である。
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