本研究では、皮膚悪性腫瘍のなかでも、近年その発症頻度が急速に増加しつつある基底細胞癌(basal cell carcinoma;BCC)に関わる癌抑制遺伝子について解析を行なった。 まず、種々の悪性腫瘍においてその変異が高頻度に認められているp53遺伝子の点突然変異の有無に関して11例のBCCについてPCR-SSCP(polymerase chainreaction-single strand conformation polymorphism)を用いて、p53遺伝子のexon2から11における変異の検出を試みた。しかし、解析した限りでは、11例のうちどの症例においても、p53遺伝子の何れのexonにも変異を示す所見は見い出せなかった。 次に、BCCを多発する遺伝性疾患であるGorlin症候群(基底細胞母斑症候群)において報告されている第9番染色体長腕における欠失について、10例のBCCに対し、9q31-34、9q31をそれぞれ検出するプローブD9S28、D9S29を用いてRELPのLOH(loss of heteozygosity)を検索した。その結果、D9S28ではRFLPinformative1例のうち1例、D9S29ではinformative4例のうち1例においてLOHが検出された。 以上のの研究結果から、本研究によって、BCCにおいては癌抑制遺伝子p53の突然変異はその発症に関与する可能性が少ないことが明らかになり、一方、第9番染色体長腕の欠失はBCCにおいて高頻度に検出されることから、この領域の近傍にBCCに関わる新たな癌抑制遺伝子の存在が示唆された。
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