研究概要 |
肝は手術前のような休息状態においては余力を充分残して回転しており、肝切除という侵襲が加わると負荷の程度に応じて代謝を亢進させ対応する。この余力こそ肝予備能といわれるものであり、硬変肝や黄疸肝などの障害肝では肝予備能の低下から過大侵襲には耐えられず肝不全に陥るのである。硬変肝においては線維化により機能容量は低下しているが、肝全体のアミノ酸利用率でみると、正常肝および硬変肝はそれぞれ39.6±19.6(ml/min/m^2),53.5±23.6とほとんど差を認めない。これに対し針生検採取肝による単位組織当たりの蛋白合成率(HPS)で比較すると正常肝9.20±6.78(10^<ー5>n mol/mg)wet wt./10min),硬変肝35.5±22.6と硬変肝では有意に亢進しており、機能容量の低下を単位肝組織当たりの蛋白合成能を亢進させることで対処している。しかしこの蛋白合成能の増大には限界があることから、これは単位組織当たりの予備能が低下していると考えられる。従来、肝予備能は機能容量と混同されてきたが、われわれは肝予備力とは肝機能容量に単位肝織当たりの肝予備力を乗じたものと考えており、機能容量と単位組織当たりの肝予備力の両者の測定が必要である。そこで肝機能容量の測定にはリドカインの代謝産物であるmonoethylglycinexylidide(MEGX)測定を導入し、ミクロゾ-ム機能より評価した。硬変肝ラットを用いた肝切除実験では、MEGX,HPSそれぞれの値より肝予備能を評価したところ70%肝切除後の予後予測が可能であった。さらに臨床的にも検討を重ねており、肝切除限界の把握に有用である感触を得ており、症例を重ねMEGX,HPSにより評価した肝予備力と、肝切除予後の関係について明らかにしていきたい。
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