研究概要 |
当該研究は、当施設において臨床的に記録された高度難聴者の聴性脳幹反応(ABR)の中に出現した潛時の3msecの陰性電位の性状の分析と発生源について、平成3年から平成5年までの3年間をかけて行われた。以下にその成果について述べる。 1.出現頻度は、1978年から1990年までの3319例のABR波形のうち、N3電位が観察されたのは46例(6.2%)で57耳(5.6%)であった。またその電位の出現は性別や年齢に無関係であった。 2.音刺激を強くすると、N3電位潜時の短縮と振幅の増大をきたした。また頭被上のいずれの部位からでも記録されるfar-field potentialの性質を有していた。 3.N3電位が記録された症例には中枢性障害を示唆する脳神経症状はなかった。オ-ジオグラムは低音残聴型の高度難聴を示し、高周波数の閾値は得られなかった 4.N3電位は音刺激の頻度が高くなると潜時が延長し、振幅が低下した。 5.N3電位が記録された症例では強大音によるTullio現象や瘻孔症状は認められなかった。 以上から、N3電位はアーチファクトではなく、強大音響刺激に対する生理学的な反応であると結論された。しかしその起源は前庭の半規管によるものと考えにくく、また低音の閾値が残存していることが、N3電位の出現に大きく関与していると思われた。蝸牛を破壊しも音響刺激によって電気生理学的な反応が得られ、その反応の起点は耳石器管の球形嚢とする動物実験の結果から(CazalY,AranJMetal.)、N3電位の起源として球形嚢が反応の起点と考えるのが最も妥当であろう。
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