三叉神経を0.1mAで電気刺激すると三叉神経尾側核におけるダイノルフィン遺伝子の発現が促進される(平成3年度)。この遺伝子発現が刺激の強さに依存するか否かを検討するために、同じ神経を1mAで刺激し、同一の核におけるこの遺伝子の発現をinsituハイブリダイゼイション法を用いて検討した。さらに、0.1mA電気刺激で得られた結果(平成3年度)と比較するために、陽性細胞の出現頻度、陽性細胞当たりのmRNAの変化を指標とし、刺激後の遺伝子発現を経時的に解析した。 無処理ラットでは、ダイノルフィンmRNA陽性細胞は三叉神経尾側核の1層と2層の外層に主に局在し、1層での陽性細胞の頻度は15%、2層では20%であった。1mAの刺激後6時間までは、この部位における陽性細胞数の増加は顕著でなく、24時間後では陽性細胞数が約40%増加した。一方、陽性細胞当たりの銀粒子数(相対的なmRNA)の変化を指標にすると、1mAでの刺激後1時間で50%の増加が認められ、この増加傾向は24時間後まで持続した。これらの結果を0.1mA刺激で得られた結果と比較すると、刺激の強さによりダイノルフィンmRNAの発現様式に差異のあることが明らかとなった。ダイノルフィン陽性細胞数の変化を指標にすると、0.1mA刺激では刺激後2時間から増加し始めるけれども、1mA刺激では24時間までその増加は認められない。また、その増加率は0.1mAで刺激した方が高かった。陽性細胞当たりのmRNAを指標にすると、0.1mA刺激では刺激2時間後から増加が認められ始められるのに、1mA刺激では刺激後1時間にその増加が認められた。また、その増加率は1mA刺激の方が高かった。これらの結果から、三叉神経尾側核におけるダイノルフィンmRNAの発現は三叉神経により支配され、その発現は刺激の強さに依在することが明らかとなった。
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