研究概要 |
我々は先に、ウ蝕象牙質中に蓄積している有機酸を分析し、ウ蝕象牙質に含まれる主な酸は乳酸、酢酸およびプロピオン酸であること、またウ蝕象牙質中の有機酸構成パタ-ンは個々の試料で様々に異なっていることを明かにし、発表した(J.Dent Res.,1991)。本年度は象牙質ウ蝕をウ蝕の進行速度や病態の明らかに異なる典型的急性ウ蝕、典型的慢性ウ蝕、充填物下のウ蝕から軟化象牙質を採取し、これらの象牙質pHおよびそこに含まれる有機酸の構成パタ-ンを比較したところ、以下のような結果が得られた。 急性ウ蝕の軟化象牙質はpHが4.9±0.2と低く、乳酸含有率は88.2±8.3%と高く、含まれている有機酸の主成分は乳酸であった。これに対し、慢性ウ蝕の軟化象牙質のpHは5.7±0.5と急性ウ蝕象牙質に比べると高かった。また酢酸およびプロピオン酸含有率は各々64.0±14.4%および18.2±9.2と高く、慢性ウ蝕象牙質に含まれている有機質の主成分は酢酸およびプロピオン酸であった。また、充填物下のウ蝕から得た軟化象牙質のpHは5.8±0.7を示し、含まれている有機酸の主成分は酢酸およびプロピオン酸であった。充填物下の軟化象牙質のpHおよび有機酸の構成パタ-ンは慢性ウ蝕のそれと類似していた。急性ウ蝕と慢性ウ蝕および充填物下のウ蝕から得た軟化象牙質のpHおよび有機酸の構成パタ-ンについて、それらの差を検定したところ、統計学的に有意差を認めた。以上のように、象牙質ウ蝕の種類により軟化象牙質のpHやそこに含まれる有機酸構成のパタ-ンが明らかに異なっていることが判明した。これらの差異は象牙質ウ蝕の病因やウ蝕病巣内の細菌叢あるいは環境の差により生ずるものと考えられた。この結果についてJ.Dent Resに投稿準備中である。
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