研究概要 |
象牙質う蝕の発生および進行には、細菌の糖代謝により生成される有機酸や細菌による蛋白分解が、重要な関与をしていることは明らかであるが、その詳細については解明されていない。先に、我々はウ蝕象牙質中に蓄積している有機酸をガスクロマトグラフィーにより分析し、ウ蝕象牙質に含まれる主な酸は乳酸、酢酸およびプロピオン酸であること、またウ蝕象牙質中の有機酸構成パターンは個々の試料で様々に異なっていることを明らかにし、発表した(Hojo et al.,1991)。本研究では象牙質ウ蝕をウ蝕の進行速度や病態の明らかに異なる典型的急性ウ蝕、典型的慢性ウ蝕、充填物下のウ蝕から軟化象牙質を採取し、これらの象牙質の水分含有量、pHおよびそこに含まれる有機酸の構成パターンを比較したところ、以下のような結果が得られた。 急性ウ蝕病巣の軟化象牙質はpHが低く、水分含有量が多く、含有有機酸濃度が高かった。(Hojo et al.,1993;北條ら、1993;北條ら、1993)。しかも含まれている酸の大部分は乳酸であった。これに対し、慢性ウ蝕の軟化象牙質はpHが高く、水分含有量が少なく、含有有機酸濃度が低かった。さらに、含まれている酸は乳酸が少なく、酢酸やギ酸、コハク酸、プロピオン酸が主体であった。さらに、本研究ではギ酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸では象牙質に対する作用に差があることも明らかにした。(北條ら、1993)。 以上のように、象牙質ウ蝕の種類により軟化象牙質の水分含有量、酸濃度、pHやそこに含まれる有機酸構成のパターンが明らかに異なっていることが判明した。これらの差異は象牙質ウ蝕の病因やウ蝕病巣内の細菌叢あるいは環境の差により生ずるものと考えられた。今後は、これらの結果をもとに、新しい角度から象牙質齲蝕病変の分類法を確立し、それをう蝕の発生機序の解析や臨床的診断などに役立てたい。
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