研究概要 |
ラット耳下腺・顎下腺の発生原基は口腔上皮に由来し、その発生・分化の大部分は生後に進行することが知られている。また,自律神経線維による神経支配も生後に進行する。したがって、唾液腺は細胞の一連の生後変化の過程を研究するのに適した臓器の一つである。本研究はこの臓器を用いて分泌シグナルの伝達機構と細胞分化との関連性を追究するものであり,本年度は下記の成果を得た。実験には生後3日以後の各週齢のウィスター系雄性ラットを使用した。母乳から固型飼料への切替は生後21日に行い,生後2週までのラットは雌雄の区別をせず使用した。 【1】耳下腺のアデニル酸シクラーゼ(AC)はホルスコリン(F)によって活性化されてc‐AMPは著しく増量し,アミラーゼ(AM)分泌が惹起された。このACのFに対する感受性は生後2週まで極めて高かったが,その後急激に低下して生後4週で成熟ラットのレベルまで低下した。この変化はAM分泌に対するFのEC_<50>値の生後変化とよい対応を示した。【2】耳下腺細胞膜と[^3H]ジヒドロアルプレノロール(DHA)との特異的結合は生後3日で既に認められ,その後このBmax値は著しく増量して,生後4週で成熟ラットのレベルに達することが明らかにされた。[^3H]DHA結合に対するイソプロテレノール(IPR)のIC_<50>値は生後著しく減少し,感受性の増強が示された。この変化は耳下腺切片からのAM分泌に対するIPRのEC_<50>値の生後変化とよい対応を示していた。そして,この変化はACのFに対する感受性の生後変化とは全く反対であった。【3】耳下腺細胞膜と[^<35>S]GTPγSとの特異的結合は生後1週のラット耳下腺において既に認められた。このBmax値は生後2週以後急激に増加して,生後4週で成熟ラット耳下腺のレベルに達し、以後このレベルは生後12週まで維持されていた。その後この値は生後56週まで徐々に低下した。【4】耳下腺分泌顆粒であるチモーゲン顆粒膜にも[^<35>S]GTPγSとの特異的結合が認められ,この結合はボツリヌス毒素によって著しく抑制された。さらにこのGTP結合蛋白質は細胞膜のそれとはちがって低分子量であった。
|