研究概要 |
歯質と親和性の期待される新しい重合開始剤システムとして、常温重合開始系では、5ーブチルー1ーメチルバルビツル酸あるいは1,3,5ートリメチルバルビツル酸(TMB)/銅アセチルアセトネ-ト/ビニルベンジルテトラデシルジメチルアンモニウムクロリド系を用いてMMA/PMMAレジンと象牙質の接着を検討し、次のような結果を得た。(1)塩化第二銅を含むクエン酸溶液で前処理した象牙質へ接着を行うと、11ー13MPaという市販のレジンで得られる最高値と同等の高い接着強さが得られた。(2)クエン酸やリン酸の水溶液で前処理し、銅塩を添加したHEMAを含むプライマ-を塗布して接着したところ、14MPa前後の大きな接着強さが得られた。(3)前処理液やプライマ-中に銅塩が含まれていない場合には4MPa程度の接着強さしか得られず、象牙質に取り込まれる銅塩が非常に大きく影響し、また銅塩の最適濃度範囲が存在した。以上のように、重合開始剤の工夫だけで強い接着力が得られたものであり、これまでにない画期的な成果である。このことは、象牙接着における、歯質と親和性のある重合開始剤という考え方、あるいは象牙質界面からの優先的重合という概念の妥当性を示すものである。一方、光重合開始系としてはTMB/カンファ-キノン系について検討した。これをTEGDMAに添加した光重合型ボンディング剤をつくり、市販の光重合型コンポジットレジンを用いて象牙質との接着を行ったところ、次のような結果が得られた。(1)5%リン酸で前処理した象牙質に対する接着強さは、市販のボンディング剤を使用した時のほぼ2倍であった。(2)新しく導入したMEPプライマ-は硬化の促進、接着強さの向上に有効であり、塩化第二銅等をさらに添加すると接着強さは一層向上した。このことは、光重合系においても、歯質と親和性のある重合開始剤という考え方が有効であることを示している。
|