平成3年度に引き続き、触診実験用シミュレーターの製作に努めるとともに、前年度までの研究を論文としてまとめた。また、最新の結果については、本年度Chicagoで開催された72回IADR学術大会にて報告している。該当年度内に発表した研究内容の要旨は、以下の通りである。 1.臨床実習生と補綴科医局員の触診時手指圧、ならびに早期接触歯の識別能を検討したところ、医局員の方が明らかに識別能が高く、中切歯、犬歯に対する触診圧は約50gと、学生より小さな値を示した。 2.中切歯、犬歯に対する触診が、下顎の閉口運動経路におよぼす影響について検討した結果、習慣性閉口路は、歯の触診によりわずかにずれる(0.4mm)ものの、運動そのものの変動幅は、ほとんど変わらないことが示唆された。 3.被験者3名を用い、早期接触の有無による歯の動態を観察した結果、加速度振幅と早期接触の高さとは、概ね関係はなく、歯の振動に含まれる1KHz以下の低周波成分の最大値、もしくは、フーリエスペクトルの累積70%値が、早期接触と強い関連性を示した。 4.以上の結果の他に、習慣性閉口の終末には、下顎切歯点での垂直方向の速度が、正常者では16.2m/secであること、触診時手指圧が50gでは、25μmの早期接触でも、歯は、特異な動態を示すことなどが確認されている。そこで、触診実験用シミュレーターに、以上の条件を与え中切歯、または犬歯触診時の歯の変位量と早期接触の識別能について検討を加えた。その結果、50μm以上の早期接触歯については、被験者(補綴科医局員)の大半が識別可能であることが判明した。これについては、現在もなお、被験者数をさらに加えて検討中である。
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