1.我々の行うスポーツ運動を理解しようとする学問は、従来、自然科学系の学問を母体にして発展してきたが、人間の運動を理解するためには、物体を相手にする学問だけではなく、人間を相手にする諸科学との統合をはかりながら、複合現象としての人間の運動を総合的に理解する必要がある。本研究の「体験される空間」を理解するためには、まさしく統合理論としてのスポーツ運動学を下敷にすべきであると思われる。そのため、Meinelや金子によるスポーツ運動学における先行業績の検討と共に井尻や村上らによる科学論的な考察を背景にしながら、スポーツ運動における「体験される空間」とはどのような科学論的段階を持つべきであるかという検討を行った。その結果スポーツ運動における「体験される空間」は、基礎的な段階の認識論、方法論を展開すべきであろうという指標を得た。 2.「体験される空間」という人間の運動世界の認知の構造を明らかにするためには、指導者や学習者の意識世界に潜入する事が必要となる。そのため、実際の運動実践の場を対象にして、指導者や学習者のやりとりを記録し、素材として洗い直す事を試みた。そこでは、対話や身振り、表に現れる学習者の反応と、それに対する指導者のすりあわせ等が記録された。そこではまさしくスポーツ運動における「体験される空間」としての人間の運動世界が現れて来る様相が伺えた。この様な人間の感覚世界への潜入に関して、どの様なかたちで記述すべきであるかという問題は依然として残っている。また人間の感覚世界はそれぞれの人間に特有の世界があり、一律に同じ世界とはいえないため、その記述は難しいものであったが、その結果はスポーツ運動学会において口頭発表、また論文発表の形で公にした。
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