本研究では、まず、各種無脊椎動物に含まれているアルケニルおよびアルキル型エーテル型リン脂質の割合を詳しく調べた。節足動物、特に昆虫ではエーテル型リン脂質の割合は低く、アルキル型はホスファチジルコリン画分の数%を占めるにすぎない。これに対し、より下等な無脊椎動物には多量のエーテル型リン脂質、特にアルキル型ホスファチジルコリン、が含まれていることが分った。この事実は、本研究により初めて明らかになったものである。アルキル型ホスファチジルコリンの役割はまだよく分らないが、加水分解に比較的安定であるところから、組織や細胞を物理的あるいは化学的傷害から守るために一役かっている可能性がある。一方、アルキル型ホスファチジルコリンは、哺乳類で血小板活性化因子(PAF)の前駆体としての役割をもっていることから、これら無脊椎動物にPAF様物質が存在しているかどうか詳しく調べた。たしかにこれらの下等動物にもPAF様物質が広く存在していることが判明した。特に、ナマコでは全身に高レベルで存在していることが分った。ミミズやナメクジ等では、色々な刺激を加えることにより、PAF様物質のレベルは著しく増大した。このことは、PAF様物質が刺激時に作られていることを意味しており、ホメオスタシスの維持等で何らかの役割を演じていることを示唆する。ミミズを用いてPAF様物質の本態を追求したところ、意外にもPAFそのものではなく、プロピオニルPAFであることが判明した。従って、動物界ではPAFだけでなくその類縁体も広く存在している可能性がある。これも本研究が明らかすることができた全く新しい知見である。この他、いろいろな無脊椎動物に、PAFを合成するルート酵素活性が広く分布していることも明らかにした。PAFあるいはPAF様物質が、哺乳類だけでなく無脊椎動物にも広く存在していて何らかの役割を演じていることはまちがいないものと思われる。
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