1.本酵素のATPase触媒頭部を構成するサブユニットA(72kDa)に対してPCR法により増幅した部分遺伝子(約1kb)をプローブにして、大腸菌の系でcosmid libraryより2個のpositive cloneを単離した。そのうちのひとつであるpKAZ1の塩基配列を決定したところ、触媒頭部主要サブユニットであるA(72kDa)及びB(52kDa)に該当する遺伝子を含んでいた。結果として明らかになった両サブユニットのアミノ酸配列は、他の多くの液胞型ATPaseの該当サブユニットのアミノ酸配列と50%以上の相同性を示した。ここに本酵素が液胞型ATPaseに該当することが証明された。 2.現在さらに塩基配列の決定を継続中であるが、本酵素遺伝子はオペロン構造を示しており、他のサブユニットに対応する遺伝子がA、B両サブユニットの上流、下流にそれぞれ存在する。この点は古細菌に分布する液胞型H^+ D2- D2Atpase遺伝子のオペロン構造に類似している。本菌にはすでにF型のH^+ D2- D2ATPaseが存在することが明らかになっているが、本菌はF、V両型のATPaseがともに同一膜上に発現している最初の生物例である。これは最近活発に議論されているF、V両型ATPaseの類似性及び進化的関係を考える上で興味深い発見であるといえる。 3.精製触媒頭部に対する抗体を用いたウェスタンブロット法により本酵素が細胞内のNa^+濃度の上昇を引金にその合成量が増加することが明らかになった。Na^+イイオンに対して特異的に反応して誘導されるATPaseは初めてであり、その制御機構を遺伝子レベルにより明らかにするため現在調節遺伝子を探索している。
|