研究概要 |
神経系を備えた最下等の動物であるヒドラでは,還元型グルタチオンが摂食シグナルになっており,摂食応答を誘発する。本研究ではヒドラのグルタチオン受容の分子機構についての研究を進めた。ヤマトヒドラはある培養条件下ではグルタチオンを受容すると触手球形成応答を示す。この応答は高等動物由来の細胞成長因子による修飾を受ける。この修飾の様子からこの応答は少なくともR1-R5の5つの応答からなる。この応答を抑制するモノクローナル抗体を調製した。この抗体を利用した免疫組織化学法でグルタチオン受容に関与している構造を見いだす事が出来た。これによると我々の得た抗体はそれぞれ抑制する応答に応じて刺胞細胞の感覚針(刺針),刺胞細胞の頂部,はっきりとは同定できない表面構造を染め出した。これらの構造が触手球形成応答に関与している物と考えられる。これらの抗体を利用してグルタチオン受容体についての研究も進めた。行動応答の解析からR5を抑制する抗体のうち,J245とJ5とは同じ受容体に働くことがわかった。免疫沈降の結果によればグルタチオンで標識される抗原は分子量およそ200kDaであった。蛋白ブロッティングによる解析ではJ245とJ5との共通抗原として200kDaと180kDaの蛋白が検出された。これらの結果からこの蛋白はヒドラのグルタチオン受容の際に受容体として機能している可能性が高い。 不適当な飼育条件下では細胞成長因子感受性の触手球形成応答を示さない。触手球形成応答を示すヒドラでは,J245抗原のサイズは30kDa程大きい。この抗原の大きさの差が細胞成長因子感受性に関係しているのではないかと考えられ今後の詳しい解析が待たれる。
|