研究概要 |
菌体から得られるリポ多糖は様々な構造の分子種の混合物であり、ブロ-ドなNMRスペクトルを与える。一方、リポ多糖から多糖部を除いたリピドAは分散が小さいが、脂肪酸に分布がある。このリピドAについては芝・楠本らによって創出された合成品が市販されており、この物のNMRスペクトルは極めてシャ-プである。まず脂肪酸の短いLAー14ーPPを用いてDMSOに溶解し、 ^<31>PーNMRを測定したところ2本のシグナルが得られた。これにタキプレシン塩酸塩のDMSO溶液を除々に加えて滴定したところ、まず高磁場側のシグナルが高磁場シフトするが,低磁場のシグナルはシフトせずブロ-ドニングする。2当量以上タキプレシンを加えたとき低磁場側シグナルも高磁場シフトする。タキプレシン塩酸塩を中和したものをリピドAのDMSO溶液に加えると沈澱が生じるが、昇温によって可逆的に溶解する。この状態で滴定を行うと、高磁場側のシグナルは高磁場シフトしたのち等量以上のタキプレシンで低磁場シフトし、低磁場のシグナルは大きく低磁場シフトする。このような振る舞いの違いは以下のように説明できる。塩酸塩の場合は塩酸によるリピドAのリン酸基のプロトネ-ションがおこり、pKa値のちがいを反映してまず高磁場側つづいて低磁場側がシフトする。一方、中性では2段階以上のステップで相互作用が行われており、リピドAのリン酸基とタキプレシンのArgまたはLysの静電相互作用のみならず、タキプレシンの芳香環側鎖がリン酸基に近づくことにより環電流効果が生じていると考えられる。
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