エンドトキシン(内毒素)はグラム陰性菌外膜表層に存在する菌体成分であり、致死毒性、発熱作用、Shwarzmann活性(出血壊死作用)、骨髄壊死作用、血圧降下作用、白血球減少作用などの有害な活性と腫瘍壊死因子誘導作用、インターフェロン誘導作用、免疫アジュバント活性、マクロファージ活性化などの医療に応用できる有用な活性の両方を合わせ持つ物質として長く注目を集めてきた。近年その本体がリポ多糖であることが全合成により証明されたが、レセプター蛋白の存在も含めて生理活性発現の機序については不明な点が多い。本研究ではリポ多糖の活性部位であるリピドAと蛋白質のモデルとしてリピドAペプチドであるタキプレシンをとりあげ、両者の複合体の構造をNMRにより明らかにしようとする。前年度までの研究ではリピドA・タキプレシン複合体が極めて水に難溶性であるため、DMSO溶液の構造解析を行い、リピドA側の非還元糖部分とタキプレシンの尾部が相互作用していることを明らかにした。今年度はより生理的な条件でのタキプレシン・リピドA複合体の構造を解明するため、各種界面活性剤による分散を試みた。陰イオン系界活性剤はタキプレシンの正の荷電と結合して強い会合体を形成するため測定不能であった。引続き他の界面活性剤を検討中である。リン脂質とタキプレシンの複合体は水に対して希薄な条件では可溶性であることがわかっているので、蛍光測定を行える。タキプレシンに含まれるトリプトファン1残基、チロシン2残基の間のエネルギー移動から距離を求めることができるのでリピドA複合体にも本法を適用すべく検討中である。
|