視野内の情報を広い範囲にわたって素早く、注意を伴わずに自動的に処理するモードを前注意的処理とよぶことにする。この過程は、入力情報の大まかな特性を迅速にピックアップし、より高次の認知の成立にとってベースとなる表現をつくる重要なはたらきをしている。 テクスチャー知覚、視覚探索、図地知覚、視覚的補間や複合パターンの知覚などテーマについて分析を行ったところ、以下のような共通する特質を把握することができた。前注意的処理過程は高速であり、しかも一過的で時間周波数の高い応答特性をもっている。空間解像度は低いが、同じ属性をもつ領域を一括して処理する連結特性を強く示す。輝度コントラストには高感度に応答するが、色度には不感性を示す。 このような特質をもつ前注意的処理過程の神経生理学的基礎として注目したのは、Livingstone & Hubelによってその特性が明らかにされた大細胞系である。大細胞系のニューロンの受容野は大きく、応答は速い。しかも、受容野の位置がはなれていても、共通する属性に応答するものは互いに結合関係をもっていることが報告されている。また輝度コントラストに敏感に応答するが、色度コントラストに対する応答は弱い。 注意機構に関する最近のモデルには、WTA(Winner-Take-ALL)回路網や共振的神経応答をベースにしたものがある。このような考え方を大細胞系の活動を中心とした枠組で展開すれば、冗長性の高い情報を抑制し、対象の認知にとって重要な位置と解像度に注意過程を自動的に、効率よく導くことができる可能性が示された。
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