研究概要 |
本年度は,以下の2種の研究を重点的におこなった. (1)表面粗さ感覚情報処理機構研究の際には,触覚系の順応現象について知っておく必要がある.そこで,手の皮膚に振動刺激を呈示した際の順応進行・順応回復現象について従来おこなっていた心理物理実験および神経生理実験の結果をまとめ,それらを統一的に説明する数理モデルを提出した.その結果から,表面粗さの検知閾測定の際にどのような間隔で刺激を呈示すればよいのか,その許容限界が明らかとなった. (2)表面粗さの検知閾・弁別馘を求める予備実験・本実験をおこなった.呈示用刺激には酸化アルミニウム粒子の塗布された精密研磨用フィルム(最大粒子直径0.1,1,3,5,9,12,30,40μm)を用した.まず,各刺激の粒子直径がカタログ値通りであるか否かを走査電子顕微鏡で観察した結果,ほぼ満足すべき値となっていることを確かめた.次にこれらのフィルムを2枚づつ組み合わせ.二肢強制選択法により粗さ検知閾・弁別閾を測定した.その結果,0.1μmと1μmの刺激は弁別不可能であったが,最大粒子直径が1μm以上の刺激では,かなりの確率で刺激相互を弁別できた.結局,表面粗さ検知閾は1μm付近にあり,平均弁別閾は2.4〜3.3μmであることが明らすとなった.皮膚機械受容器の分布密度・神経発射周波数特性を考慮すると,刺激の表面粗さの粗密を単純に神経発射頻度の多寡に変換することは不可能であることがわかった.感覚情報処理システムでは,粗密情報を神経系の能力範囲内の時空間パタ-ンに読み換えていると思われる.これがどのような変換であるのか追求することが来年度の課題である.
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